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コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

ニューヨークでがんと生きる | 千葉敦子(文春文庫)

ニューヨークは今も多くの人にとって、魅力的な場所なのかな。
この本は、このニューヨークに長年憧れてきたフリージャーナリストの著者が、1980年代前半に40にして単身移住してからの2年余りの記録。
乳がんを患っていたことから、大半はニューヨークでの闘病記となっている。
彼女のニューヨークへの熱い思いも随所に滲んで、読後はしばし呆然。

千葉さんはニューヨーク渡航前に癌を発症し、日本で再発を経験。
そして再々発をニューヨークで迎え、三度目の闘病に立ち向かうことに。
医療機関や治療法も日本とアメリカでは勝手が違い、しかも三度目の発症ということで、彼女には不安も恐怖ももちろんあったに違いないんだけど、本書では理論的に、客観的に、そして冷静に自己の闘病体験を記録している。

「知る」ことは患者の責任だ、として病気や治療法について調査を欠かさず、自分の状態・症状について、たとえ悪い状態であっても臆することなく書いている。
そして、当時のアメリカと比較し、日本医療、日本社会へ苦言を呈する。
感情や感傷に負けない、ジャーナリストの筆にただただ感服する。

その理論派の彼女の根底にあるのは、ジャーナリスト精神だけじゃなくて、彼女自身が本来持っている強さならでは。
東京にいる時も、ニューヨークへ来てからも、彼女は自身で選び取ってきた道をがむしゃらに生きてきた。
がんの化学治療による副作用で体が思うように動かなくなってはじめて、自分の思い通りにならない世界を知る、ということはその表れでもある。
情報収集を欠かさず、常に「これだ」と選んできたものはすべて彼女の自信・プライド。
それゆえ、ときに筆は主張が強く、私とは相いれない意見もあった。
その強するぎる主張は、「自分を肯定してほしい」という彼女の無意識の叫びのようにも思える。

私の感想は、解説を書いた向井承子氏に近い。

本書は、千葉さん自身の「選択」への、強烈なこだわりの記録なのだと、改めて思う。
<中略>
知る権利が必要なら、知りたくない権利があってよい。

この解説があって、よかった。

けれど、意見は多少異なっても、不思議と彼女に反発心は抱かない。
機会があれば、ほかの著作も読んでみたいと思う。
まっしぐらに仕事に励み、快活な彼女の姿は眩しい。
彼女の書く文章は理知的で気持ちがよく、もし知り合う機会があったとしたら、多分私の好きなタイプの女性だと思うから。
そして、死へと向かう、彼女のこの著作以降が気になるからでもある。

自分の書くものが、だれかの考え方や生き方や幸福度になんらかの影響を与えられるかもしれないという期待、そして、ほんの少しであっても社会の進歩に貢献したいという使命感<以下略>

この本が刊行されてから25年たった今を生きる私にも、著者の言葉や気持ちはきちんと届いた。

ニューヨークでがんと生きる (文春文庫)

ニューヨークでがんと生きる (文春文庫)