コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

わが闇@KAAT

一部でケラの最高傑作とも言われていた本作、どれだけすごいのかと期待を膨らませ楽しみにしていた。
しかし、何と個人的には不発。興奮が沸点に達さぬまま、舞台は終幕してしまった。
つまらなくはない、しかし面白くもなかった。
ケラリーノ・サンドロヴィッチの作品は2度目。
これはいつもの作風なのか、それとも違うのか自分には判断しかねる。

斬新な照明や、場面転換時に現れる字幕など視覚的な装置はカッコよかった。興奮した。
でも、少し冗長に感じられる展開(やはり3時間半は長い)、セリフの平凡さ(舞台ならではの沸き立つ言葉が発せられない)、キャラクター設定の浅さ(登場人物が表層の個性からはみ出ない)がどうしても…。
色んなエピソードが絡まっているように見えるのだけれど、それが枝葉に広がっていかない不思議な作品だった。

序章の母の自殺は、以後何も影響を見せない。
母によく似た、艶子の同級生が登場してくるにも関わらず。
そして父が姉妹で一番愛していたのは艶子である、という事実を知ってしまった立子も何も飛翔しない。
艶子に対しなんらアクションを起こすわけでもなく、流れていく。
立子はこの作品の主役だと思うんだけど、彼女の苦悩が私には一番見えなかったな。
最後には失明という運命も待ち受けるけど、蛇足じゃない?
艶子は面白い役なのだけど、放火のエピソードが軽い。
放火の過去自体は確かに彼女の抱える闇なのだけど、なぜ寅男と別れないのか、という理由づけがまるで昼メロのよう。

人間の泥臭さを見せたいのか、それとも闇を抱える人間たちを網羅的に見せたいのか。
この作品の向かう場所がなかなか見えなくて、観劇しながら答えを探した。
私がひとりで迷子になったかな。

進行役は映画監督の滝本を演じた岡田義徳
彼の声が「間違いない!」の長井秀和にそっくり過ぎて、進行が始まると芝居から気が散った。

姉妹の母親役とプロデューサー役の二役を演じた松永玲子さんが良かった。
特にプロデューサー役の元気の良さ。
役の性格もあっただろうが、ほかの演者たちとパワーが違う。
ハキハキした物言いとでかい声で舞台がぱーっと明るくなった。

あと印象に残ったのは、艶子を演じた峯村リエさん。
おっとりして少しボケた姉妹の真ん中は、一歩間違うとすごく鈍くさくなると思うんだけど、嫌味なく自然に演じられていて、自分は一番この人に感情移入してしまった。

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ峯村リエみのすけ三宅弘城大倉孝二松永玲子、長田奈麻、廣川三憲、喜安浩平、吉増裕士、皆戸麻衣、岡田義徳、坂井真紀、長谷川朝晴