コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

ブラス!(1996年/イギリス)

サッチャリズム」によって、失業を余儀なくされた炭鉱夫たちのドラマ。
リトル・ダンサー」を観てから、この作品も早く観ねば、と思っていた。
エンターテイメントに社会風刺をこめた作品が、日本からももっと出てくればいいのに。

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1994年。イギリス・ヨークシャー。
地元の炭鉱夫たちで構成されるブラスバンド「グリムリー・コリアリー・バンド」。
地元の炭鉱が近々閉鎖されるかもしれない中、指揮者であるダニーは情熱いっぱいだが、バンドメンバーたちの士気は上がらない。 ヨークシャーを訪れたグロリアが、このバンドの練習に顔を出すところから、物語は始まる。

主役はてっきりグロリアと、ユアン・マクレガー演じる若手炭鉱夫のアンディなのかと思いきや、本当の主役は指揮者ダニーとその息子フィルだった。
この「ブラス!」は、閉じる炭鉱を巡る争いと、炭鉱閉鎖に伴い解散の危機が訪れたブラスバンド、そしてある父子の愛を描いた作品だった。

妻と子ども4人を抱えるフィルが、当時の炭鉱夫の悲哀を体現している。
細る収入と借金で生活は逼迫し、ダニーが長年の炭鉱の仕事で肺を病み倒れたその日、家財は借金取りに持っていかれ、妻と子供は家を出る。
たぶんそんなに賢いタイプではなく、手癖が悪くて刑務所にお世話になった過去を持っているらしいフィル。
父と妻と子、それぞれを幸せにしようともがきながら空回りする。
一方で、炭鉱の閉鎖に強く反対していながら、最終的には慰安金欲しさに炭鉱閉鎖の投票には賛成を投じる。

ダニーを元気づけるために、夜中、病院の外でバンドのメンバーが「ダニー・ボーイ」を演奏する場面。
炭鉱の閉鎖からバンドの解散が決まり、実質ラストの演奏となるはずだったこの演奏は中盤の名シーン。
メンバーが様々な思いを抱えて演奏する中、こらえきれず涙をこぼしながらトロンボーンを吹くフィルに自分は圧倒された。
妻と子が去り、仕事もブラスバンドも無くなって、さらに父を失おうとしている苦しみ。
本人が悪いわけではなく、運命を恨むしかないような顛末に、自分も涙がこぼれた。

そして、フィルが自殺未遂を起こす。

最後の場面でも、まだ消えていないフィルの首縄の後。
コンクール優勝後の、聴衆へ向けたダニーの辛口の演説は、バンドの解散だけでなく、息子の自殺未遂も影響しているに違いない。 今度は父から子への愛だと、自分は思った。
コンクールで優勝しても、彼らの現実は何も変わらない。
仕事も音楽も奪われて人生に絶望しようと、彼らの人生は続いていく。

作品は、観光バスのオープン席でエルガーの「威風堂々」を演奏している場面で幕を閉じる。
彼らのプライドを表しているようで、ものすごく格好良かった。

ブラス! [DVD]

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ブラス!
1996年/イギリス
原題:Brassed Off
監督・脚本:マーク・ハーマン
出演:ピート・ポスルスウェイトユアン・マクレガー、タラ・フィッツジェラルド、スティーブン・トンプキンソン、ジム・カーター