コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

パイロットの妻 | アニータ・シュリーヴ(新潮社)

墜落した飛行機の機長の妻の話。
物語が浮き上がるまでの助走が長くて、正直中盤までは退屈だったのだが、最後まで読み終えると不思議な後味がある。
最初は単なるラブ・ストーリーだと思ったのに、次第にミステリアスになりスリリングになり、最後はキャスリンという一人の女性の尊い物語だったと気づいた。

パイロットの妻 (新潮クレスト・ブックス)

パイロットの妻 (新潮クレスト・ブックス)


あらすじは大方知っていたつもりだったけれど、中盤以降は自分の想像をはるかに上回る展開の連続で、機長の妻であるキャスリンと共に、真実が明らかになる度愕然とした。
夫の死をきっかけに知らなくていい事まで知ってしまった衝撃と、死があったからこそ知り得た大切な人のもう一つの顔。

終盤、キャスリンは墜落現場まで行って、衝動的に結婚指輪を海に投げ捨てる。
読み進めながら、読者の私でさえも少々重たく感じるほどに夫を愛していたキャスリンが、一気に夫と決別する場面。
キャスリンが夫依存から抜け出して、精神的に独り立ちする。
決して、夫への恨みからではない。夫に対する愛が消えたわけでもない。ただ、目が覚めたんだと思う。
夫の死の前から何となく気づいていた違和感と距離感。その原因が判明して、今までずっと頑なに夫を信じてきた自分と決別したのだ。
この場面にたどり着くまでの過程を知っているからこそ息をのむ、キャスリンの恐ろしいほどの爽やかさ、潔さ、しなやかな強さ。

自分はまもなくこの地を去って、飛行機で故郷に帰る。そしてジュリアの家まで車を飛ばすだろう。そこで娘に、さあ一緒に帰りましょう、と声をかけるのだ。そう、自分の人生はマティと共にある。
それ以外の現実はあり得ない。

一つの愛から解放されると、こんなにも肩が軽くなるのか。

感動的だった。

そして、これは小説と関係ない余談。
最近エジプトのシナイ半島で墜落したロシア民間機のニュースが飛び込んできたばかり。
現実は小説よりも奇なりという感じで、読み進めながらそのニュースがチラついて仕方なかった。
飛行機って何かが起こると誰も助けられない絶望感があって、飛行機事故を耳にするとぐっと一瞬息が詰まる。