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コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

わたしを構成する9冊

「わたしを構成する9枚」ってタグが流行った時、ふーんって華麗にスルーしたんだけど、最近暇になったからか、聞いたアルバムじゃなくて、読んだ本の方でちょっと9冊やってみたくなった。
好きな9冊っていうか、「構成する」っていうのがちょっと癖あるなって思ったけど、案外すんなり選べたかな。この15~20年くらいで読んだのがバランスよく並んだ。「放浪記」と「風と共に去りぬ」が去年読んだ作品か。

1. この人の閾 | 保坂和志新潮文庫

私の好きな作家のひとり、保坂和志。彼の作品は外せない。この本にはいくつか短編が収められているけど、圧倒的に好きで、もはやそれしか読み返さない表題作の「この人の閾」は、わたしの中のベスト1。

ある平日の昼下がりに学生時代の先輩の家で草むしりするだけの話なんだけど、なぜか心惹かれてしまう。ありきたりの日常の中に、普遍的な何かを見ているようで、定期的に読み返している。
時代のせいもあるのかな、主人公の三沢がサラリーマン批判、主婦賞賛に感じられなくもない意見をこぼす時があって、そこには読む度反発を覚える。それでも三沢と真紀さんの会話は何度読んでも飽きない。この会話の温度はラジオに似てる。相性とか気の許し具合とか会話だけでわかってしまう、そんな温度ね。

タイトルの意味がわかったのは何度か読んでから。だれかの閾を知って、たとえ分かり合えなくても、それでも誰かを愛す。その尊さよ。

平安京なら造られてからずっと人がそこで生きてきたが、平城京は何もなくなってただ条理の形跡を留めるだけの平らな土地が残された。夏草だけが生えた何もない地面を歩きながらぼくは、長い長い空白の時間を超えて平城京の時代に生きた人たちのざわめきが聞こえてくるような気がしたのだけれど、真紀さんはそれはやっぱりただの空白でしかないと言うのだろうかと思った。 <

この人の閾 (新潮文庫)

この人の閾 (新潮文庫)


2. 季節の記憶 | 保坂和志(中公文庫)

保坂和志はこの本もチョイス。この本、初めて読んだのは今でも覚えてる。2003年。わたしの初・保坂和志作品。大学生協の本屋に並んでたの。

シングルファーザーになった父と就学前の息子が鎌倉に引っ越してからの鎌倉の日々を綴ったもの。彼の作品らしく、やっぱり何が起こるわけでもないんだけど面白い。はじめは案外理屈っぽい主人公中野に面倒くささを感じたりもしたけれど、どこかふらふらしたこの男の空気とか、彼の周りの不思議な人たちとの日常に途方もない愛おしさを感じて、しまいには離れ難くなる。
私は松井兄妹よりも、中野が煙たがってる二階堂とかナッちゃんの方が好き。ちらっと読み返してみたら、結構年上だと思ってた31歳のナッちゃんの年齢を私超えてしまってた。

季節の記憶 (中公文庫)

季節の記憶 (中公文庫)


3. つめたい夜に | 江國香織新潮文庫

江國作品は高校生~大学時代にかけてよく読んだ。私の十代はたぶん村上春樹江國香織で出来てる。村上春樹は今回選外なんだけれども。
私は初期の江國作品が好きで、中期以降の作品はあまり心惹かれなかったり、飽きちゃったりして記憶からどんどん薄れて行ってるんだけど、この「つめたい夜に」は何年たっても揺るがない。実際、江國作品でたまに読み返すのはこの作品か「きらきらひかる」くらい。

ほんとうに短い童話みたいな作品が砂糖菓子みたいに詰まってる短編集なんだけど、実は甘くない。柔らかさの中に、大人のぴりりとした辛味も差し込んでくるバランスが心地いい。「ねぎを刻む」「さくらんぼパイ」「晴れた空の下で」が断突に好き。
「ねぎを刻む」を読んだとき、この女の子のような孤独を私も永遠に抱きしめて生きてくんだろうなって確信を持って、今もそれは変わってない。人は誰しもそんなもんだって教えてくれた大切な一遍。

つめたいよるに (新潮文庫)

つめたいよるに (新潮文庫)


4. ヴェネツィアの宿で | 須賀敦子(文春文庫)

これは横浜駅東口丸善で買った本。当たりかなーハズレかなーって考えながら手に取って、えいやって買って大正解だった本。帰省したときに読もうとしてたけど、行きの道程じゃ読み切れなくて、夏日に照らされた実家の畳部屋で寝っころがりながら読んだ記憶がある。

ヴェネツィアとタイトルにはあるけれど、かつてイタリア・ミラノで暮らした頃のことと、幼少時代や疎開していた頃のこと、留学していたパリ時代の思い出など、場所の記憶は多岐にわたる。それでも筆者に導かれるまま、彼女の人生から過ぎ去って行ってしまった人のことを感じながら、ふわふわと記憶の旅を一緒に巡る。時間は過去へと戻らないけれど、過ぎ去った時間は多ければ多いほど豊かだ。
過去はうっかりすると美談になってしまいそうだけど、好きでなかった人や困った人、哀しい人たちをも、多少感傷を交えながらも、当時の記憶のままに語っているのが清々しかった。率直な人柄が見て取れて、この人をもっと知りたいと思って、この本をきっかけに、彼女の著作をこの後ほとんど手に取った。

ヴェネツィアの宿 (文春文庫)

ヴェネツィアの宿 (文春文庫)


5. 昼が夜に負うもの | ヤスミナ・カドラ(ハヤカワepi)

細かい記憶は薄れたものの、文章の密度の濃さとアラブ系少年ユネスの翻弄される運命にすっかり魂を奪われた作品。
人間は悲しい。生まれた時代、土地、血の影響を受けて生きて行かざるを得ない人間もいる。出自と言い換えてもいいけれど。
アルジェリアに強く惹かれて、死ぬまでに一度行ってみたいと思うけど、この政情で果たして叶うかどうか。

昼が夜に負うもの (ハヤカワepiブック・プラネット)

昼が夜に負うもの (ハヤカワepiブック・プラネット)


6. 放浪記 | 林芙美子新潮文庫

母子の関係が私にはしんどかった。でもこれ以外ないのだよ。今は無理だけど、たぶん絶対また読み返すに違いない作品。
これはブログに書いたので詳細は割愛。

放浪記 (新潮文庫)

放浪記 (新潮文庫)


7. 本格小説 上・下 | 水村美苗新潮文庫

はじめて読んでから10年以上経つけれど、この作品の重厚感も色褪せない。隠せない出自を抱えた子がどう生きて行くのか、というストーリーがもしかしたら私は好きなのかもしれない。
これもブログに書いたので割愛。

本格小説〈上〉 (新潮文庫)

本格小説〈上〉 (新潮文庫)

本格小説〈下〉 (新潮文庫)

本格小説〈下〉 (新潮文庫)


8. 風と共に去りぬ 1~5

大河ドラマ並みの展開に興奮して、トンデモなスカーレットに圧倒されて。アメリカ南北戦争の壮絶な銃後の描写も、個人的には衝撃だった。
ま、詳細はこれもブログに書いたので割愛。他訳を読んでみたいのよね。

風と共に去りぬ (1) (新潮文庫)

風と共に去りぬ (1) (新潮文庫)


9. 海が聞こえる | 氷室冴子徳間書店

はじめはジブリ作品から。その後原作読んでみたら、原作を忠実にアニメにしたのがわかって、ジブリの誠実さに感動した。違うところはラスト、里伽子が同窓会に現れないことだけ。

東京から高知に転校してきた里伽子と、地元の高校生杜崎拓の物語。当時同じように私も東京から山形の片田舎に都落ちして、私の場合は小学生だったので色々あったりして、ジブリ作品を見て「杜崎拓みたいな男の子が私にもいればいいのになー」って思ってた。都落ちの理由も里伽子とまるまる一緒だったし。地方っていうのは、人の家庭環境まで全部丸見えなのよ。
初めて読んだのは小学生か中学生だったかな。バイトとか、ハワイへの修学旅行とか、東京旅行とか何か大人な感じで、そんな憧れもあったな。実際の私の高校生活は体験してみれば、それはそれは地味なモノだったけど。
すごくすごく救われたのは、ラストの同窓会。里伽子のいない料理屋で、杜崎拓と松野豊と清水明子の三人で語らっている場面で、清水明子がこう言う。

世界が狭いき
嫌いな子がそばにおると、キリキリしたがよね
存外 塾とかピアノとか、学校以外の世界があると、嫌いな子の一人や二人、どうでもようなるにね

当時、地方独特のすごく狭い世界できゅうきゅう言ってた私は、この言葉で耐えられた。地元を出ればまた別の世界が待ってるんだって思ったら、がんばれた。この作品は、こういう地方感の出し方が完璧で、私は泣けた。

ただ唯一許せないことがあって、ジブリの方は里伽子は最後まで同窓会に姿を現さないけど(私はジブリ版の方が好き)、小説の方は二次会かな?で顔を出す。確か出したはず。そしてカラオケで歌をかけるんだけど、これがハードカバー版と文庫版でかける歌が変わってるのよね。これがいただけない。中森明菜安室奈美恵に変更されてて「げっ」ってなった。これは明らかに時代変更し過ぎ。

海がきこえる

海がきこえる

アニメも見てほしい。