コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

アルタイの片隅で | 李娟(インターブックス)

1998~2003年頃の中国北西部の新疆ウイグル自治区での著者自身の暮らしを書いたエッセイ。

筆者の家族は、タイトルにある通り、都市ウルムチではなくアルタイの辺境に暮らす。
ここにはかねてよりカザフ族が遊牧生活を営んだ土地だけれど、文革時に南京から来た若者が家を建て、畑を耕した。文革後に若者たちは去り、残された家や畑をカザフ族が利用して、定住する者が生まれ、町が出来たよう。
漢族の少ない土地での言語や風習の異なるカザフ族とのやり取りや、厳しい気候条件のもとでの暮らしぶりが、驚きに満ちたまなざしで瑞々しく綴られる。悲哀はない。ただそこに生き、世界をまるごと受け止めるような著者のスタンスが心地よい。

キルギスという国に少しの間身を置いた者として、不思議な懐かしさを感じながら読んだ。
少し昔の話だから、町もカザフ族の人々や暮らしも、今では大きく変わっているかもしれない。
著者は私より少し年上だけど同世代。彼女の現在地がとても気になる。

以下、グッときた文章を抜粋。

幸い遊牧民は、まじめできっちりしているし、信仰があるから普通ツケを踏み倒すようなことはなかった。ツケで売るのは一見危ないように見えるが、長い目で見れば、結局採算は合っているものだ。
相手のことばが上手でないということはどうでもよかった。伝わればそれでよかった。もし伝わりさえしないなら、想像力が強くなければならない。
ある日、私たちだってもしかしたらこんなふうに話がしたくてたまらなくなって、誰かの家に入り込んで、話し相手を探して一生懸命話をし、話し終わると去って行くのではないか。そんな生活にもっと満足しながら。
遊牧民はこうした移動生活を築百年の家に住むよりもっと安定したものとして続けてきた。
<中略>
少なくとも私が知っている羊たちは、遊牧民が言うには、食べ物として存在しているだけでなく、それよりもっと「孤独でない」ために存在しているようだった。
<中略>
私は、こんな生活が変化を迫られるとは思わないし、こんな生活様式がいつの日か消滅してしまうなんて思いたくなかった。

アルタイの片隅で

アルタイの片隅で

  • 作者:李娟
  • インターブックス
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