コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

ドライブ・マイ・カー(2021年/日本)

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ハルキが苦手で観るの先延ばしにしてたけど、さすがにもう観た方が良い気がして先週末に映画館へ。ひとことで言えば、本当に素晴らしかった。濱口作品の「ハッピー・アワー」と似た感動を覚えて、観終えて一週間たつ今も心はブルブルブル震えている。

前半はハルキ味が強くて、正直ついていけるか心配だったんだけど杞憂だった。タイトルバックの後、2年後に世界が移動してからはのめり込むように見入ってしまった。

チェーホフの言葉がズバズバとシーンにハマっていく展開はさすが。最後のソーニャの手話は圧巻で言葉もない。発話よりも胸に迫ってくるのは一体なぜなのか。

この物語は癒しとは違う、別軸の物語だと思った。
生きることは苦しい。でも生きていくしかないね。誰かの痕跡をたくさん自分の中に刻み付けながら。
そんな話なのだと自分は思った。
実際、ワーニャを演じる家福は舞台袖で苦しんでいる。

家福からにじみ出るマチズモに蹴りを入れたくなる瞬間はあったし、「結局女に救われるのか」というレビューも読んだ。そういう観点は必要で批評されるべきだと思うけど、個人的にはコン・ユンスや高槻の存在、そしてチェーホフの戯曲も彼に影響を与えたと思う。
わかりやすい救いなんてない。私は神を持たないから、この世で得た苦しみや悲しみを死後に慈しんでくれる誰かはいないけど、死んだ後の世界を想像するのは悪くない気がしている。

遅れてやってきた、2021年に見た映画まとめ

今年も記録しておく。昔のように1作品ごとの感想をブログに書かなくなったので、感想をまとめるプレッシャーからは解き放たれたけど、その反面、作品の内容を忘れやすくなった。何に心が震えたのか忘れることが増えた。メモすればいいのに、メモさえもう面倒くさい。

今年のベスト10を絞るのは難しいけど、もう一度見返したいと思う作品を挙げるとすれば次の4作品。

  • フランシス・ハ(2014/アメリカ)
    女の子の夢が終わりを迎えて別の形で始まる物語。人生に不器用にもがいてるフランシスは他人事ではなかった。彼女のラストの笑顔は本当に素敵。

  • ブラック・クランズマン(2018/アメリカ)
    黒人を扱った作品を見たいのであれば、「グリーンブック」ではなくこちらを見るべきという口コミを見かけてこの作品を見たんだけど、納得。
    アダム・ドライバー演じるユダヤ人を間に入れて、黒人と白人の二項対立だけでなく多面的な人種差別を見せてくる構造が上手い。ぐいぐいと話を引っ張るエンタメ性を持ちながら、黒人がかつて受けたリンチの告白が差し込まれ、最後には現在進行形のニュース映像を出してくる。黒人と白人の対立は綺麗なストーリーにはまだ収まれない。

  • 芳華-Youth-(2017/中国)
    70年代に青春時代を贈った主役の二人の人生が友人である第三者によって語られる。印象的なシーンは沢山ある。でも圧倒的に忘れられないのはラストシーン。激動の社会変化の中で時流に乗り切れなかった二人の行き着いた先が尊すぎて。彼らの悲しみや苦しみは数えきれないけれど、彼らが手に入れたものは他のみんなが手に入れられなかったものだと思うから。

  • ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん(2021/日本)
    この作品の感想は過去ポストに書いたので、省略。


今年見た映画リスト。以下50本。(★は劇場にて鑑賞)

  1. SHADOW/影武者(2018/中国)
  2. もらとりあむタマ子(2013/日本)
  3. 7番房の奇跡(2013/韓国)
  4. ハナ 奇跡の46日間(2012/韓国)
  5. 羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来(2019/中国)★
  6. 猟奇的な彼女(2001/韓国)
  7. 怪しい彼女(2014/韓国)
  8. フランシス・ハ(2014/アメリカ)
  9. ミナリ(2021/アメリカ)★
  10. 新聞記者(2019/日本)
  11. 点対点(2014/香港)
  12. ビューティーインサイド(2016/韓国)
  13. 少年(1969/日本)
  14. インスタント・ファミリー(2014/香港)
  15. これからの人生(2020/イタリア)
  16. 芳華-Youth-(2017/中国)
  17. ノマドランド(2021/アメリカ)★
  18. マルモイ ことばあつめ(2018/韓国)
  19. 長江 愛の詩(2016/中国)
  20. アキラ AKIRA(1988/日本)
  21. 国際市場で会いましょう(2015/韓国)
  22. マダム・イン・ニューヨーク(2014/インド)
  23. 国選弁護人ユン・ジンウォン(2015/韓国)
  24. イカとクジラ(2005/アメリカ)
  25. ハスラーズ(2019/アメリカ)
  26. スウィング・キッズ(2018/韓国)
  27. グッバイ・シングル(2016/韓国)
  28. 弁護人(2013/韓国)
  29. フェアウェル(2019/アメリカ)
  30. 1987、ある闘いの真実(2017/韓国)
  31. ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん(2021/日本)★
  32. エターナル(2016/韓国)
  33. EXIT(2019/韓国)
  34. グリーンブック(2018/アメリカ)
  35. タチャ イカサマ師(2006/韓国)
  36. スキャンダル(2019/アメリカ・カナダ)
  37. ブラック・クランズマン(2018/アメリカ)
  38. リトル・フォレスト 春夏秋冬(2018/韓国)
  39. お嬢さん(2016/韓国)
  40. 完璧な他人(2018/韓国)
  41. 新感染 ファイナル・エクスプレス(2016/韓国)
  42. チャンシルさんには福が多いね(2019/韓国)
  43. ハイヒール(1991/スペイン)
  44. 22年目の記憶(2014/韓国)
  45. 汚れたミルク/あるセールスマンの告発(2014/インド・フランス・イギリス)
  46. パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021/イギリス・オーストラリア・アメリカ・カナダ・ニュージーランド
  47. イカ(2018/カザフスタン・ドイツ・ポーランド・ロシア・中国)★
  48. チャンス商会 初恋を探して(2015/韓国)
  49. はちどり(2018/韓国・アメリカ)
  50. 偶然と想像(2021/日本)★

列挙してみると圧倒的に韓国映画が多いな、、、。

最近見終えたドラマ4本

保健教師 アン・ウニョン

f:id:towaco:20211124180710j:plain チョン・ユミとナム・ジュヒョク主演だから見た。
全体的に理解できたか?と問われれば、正直よくわかんなかった。 たぶん原作を読むべきなんだと思う。
クジラが空飛ぶ画とかは良かったです。

ウンジュの部屋

f:id:towaco:20211124180929p:plain こちらはさして期待もしていなかったのに大変に良かった。
各カットがとても良くて、画面を見ているだけで至福。
韓国ドラマはカメラ切り替えが頻繁なのが多いので時々とても疲れるのだけど、このドラマは落ち着いて洗練されたカット運びが素晴らしい。
あと、ドラマ全体のキーカラーがオレンジなんだけど、画面の至るところにオレンジのアイテム(ファッションや家具小物など)が散りばめられてた。照明カラーもオレンジ。オレンジの配色はすごく暖かな気分にしてくれる。
このドラマは美的センスに優れた人たちが集合して、ドラマの画を作ってる。
あと、みんなのファッションも可愛かった。スタイリストさん、Good Job。

自暴自棄になっていたウンジュが自分の好きなこと(DIY)を極めながら、自分の心を安定させていくプロセスに共感。ウンジュのお金はどうなってるのかな?とか思っちゃったけど気にしないよ。特にドラマで描写はなかったけど、セリフを見てると全くの無職ではなくバイトはしてたんだよね?
恋愛はあってもなくても良かったよ、ていうかなくて良かったよ派なんだけど、このドラマの雰囲気が好きになってしまったのでOK。 ドラマの最後に役者が出演するDIYコーナーとかもあって、ゆるゆるな感じに癒された。
U-NEXTで見れる。

メイドの手帖

f:id:towaco:20211124181559j:plain 全10話を一気に見た。
この物語は日本でも、そして世界中のどこにでも存在する。

アレックスが夫から逃れることも大変だし、住居や仕事を見つけることも大変。社会保障を受けるのも大変。娘を引き取り、幼稚園に入れることも。同じく苦境に立たされている自分の母を支えることも。
すでに足りないものが多くあるのに、それらを手に入れ、安定的に供給するために非常に強力なタフさが要求される。しんどすぎる。 女性がどこかで一歩でも踏み外すと待っている落とし穴。
それでも、とにかく目の前のミッションを乗り越えようと果敢に奮闘するアレックスはすごい。ときに愚かさも見せるけど、この荒波の中で彼女だって甘えたり、夢みたいときはある。

印象的なのは、女性同士の連帯。 社会階級や個々人の事情が違っても、女性同士が共感してお互いを支え合うシーンがいくつも出てくる。彼女たちは連帯しながら、自分たちの人生に立ち向かう。

アレックスの母親役を演じているアンディ・マクダウェル。私にとっては「フォー・ウェディング」のキャリー。相変わらずトリッキーな役だな、と思ったことは秘密。
www.netflix.com

ミスター・サンシャイン

f:id:towaco:20180916194921j:plain 24話を半年くらいかけて見た。
私には序盤から設定が難しくて、ストーリーがようやく理解できるようになったのは15話くらいから。それまでは正直苦しかった……。
でもトータル的に見て面白いドラマだったし、挫折せずに見れてよかった。

映像や音楽、衣装、そして役者に至るまで豪華絢爛でそれだけで見る価値あり。ただ、物語の語り口がちょっと微妙かな。
事件やイベントが起こったときの事象を劇画的に、情感たっぷりに映すのだけれど、そこに至るプロセスがぶった切られたストーリー展開が多くて、時々何を見てるのかよくわからなくなる。これは歴史を知っていれば解決する話ではなくて、監督や脚本家がそう描きたいのだと思う。悠長に描かれるシーンと省略されたシーン(描かれなかったシーンと言い換えてもいい)の落差が激しくて、その隙間を個人で埋めることは私に難しかった。
その間を上手く繋げてくれていれば、とても良い作品になったはず。

あとはこれだけ豪華に作っているのに、下関と東京が混同された扱いになっていたりして、そこも残念だった。他の設定も間違えているんじゃないかとうがってしまう。下関と東京の距離感は少し調べればわかったはず。
時代は韓国併合の少し前のあたり。日本が朝鮮で何をしたのか、理解することができるドラマになっているので、細かい設定の間違いは命取りになってしまう。

他の人も言及しているけど、イ・ビョンホンとキム・テリのカップルはちょっと年齢差が辛かったな。ユジンはイ・ビョンホンが適役だし、エシンも芯のあるキム・テリが適役。恋愛にさせず、友情関係にすればよかったのでは、、、。
個人的に猟師を演じたチェ・ムソン、エシンのお世話をするハマン宅役のイ・ジョンウンと行廊アボム役のシン・ジョングンが良かったです。特に、チェ・ムソンはこの情感たっぷりなドラマの中で、大きな感情のふり幅を見せない朴訥とした演技をしていて、岩山のような特異な存在感を放っていました。
www.netflix.com

ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。(2021年/日本)

3年前にEテレで林典子さんが取材した北朝鮮にわたった日本人妻のドキュメンタリーを放送していて、なんとなく見ていたのに、気が付けば画面に釘付けになったのを覚えてる。
彼女たちは日本社会から忘れられた存在となって久しいが、かの国で生き続けていて(当然である)、日本への望郷の思いを募らせている。配偶者も亡くなり、日本に帰りたいけれども帰れない。
日本人拉致被害者は時折報道でも目にするが、日本人妻の存在は誰が思い出させてくれるのか。私自身、北朝鮮に「帰国した」日本人妻の存在を知らず、このドキュメンタリーで初めて知ったと思う。そして、その後に帰国事業のことを少し調べて、絶望した。

www.nhk.or.jp
そして2021年。
「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」が公開されて、これは行くしかないなと思って、見に行ってきた。

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国境と長い時間に分断された姉と妹。
お姉さんの愛子さんにも語られない色々なことがあったろうし、かつて少女だった恵子さんも大人になり、カメラの前では語っていない大変な苦労があっただろうことが想像される。北朝鮮に渡った姉のことを常に考えるような心の余裕もなく、きっと人生に追われていただろう。

50年以上の時を超えた再会は果たしてどうなるのかと思ったが、愛子さんは車いすから身を乗り出して恵子さんの方へ腕を伸ばした。その強い思い。
少し時間がたってから、愛子さんが「恵子は会ったら私を叩くと思った」と笑いながら話していたけれど、愛子さんは恵子さんに会えるのは嬉しかったけど、その反面怖かったんだなと。チャーミングな笑顔とは裏腹な、北朝鮮から贈られた手紙の文面には愛子さんの凄まじい苦しみが詰まっている。
ふたりが会えて、よかった。

多くのまだ北朝鮮に残っている日本人妻の方たちが、愛子さんや恵子さんのように、日本の肉親と会えてほしいが、現実はそうはいかない。人それぞれの事情がある。
だがしかし、日本政府からのフォローはあってもよいのではないか。北朝鮮への帰国事業は当時の国策だったが、その後はほぼ棄てられた民のような扱いだ。かつて行われていた日本人妻の一時帰国事業(これはテレビで報道していたのを覚えているなぁ)も、もう20年近く止まったまま。彼女たちは年を取り、残された時間はほぼない。
政治の我慢比べはいったんわきに置いて、人道的観点からどうにかならないかと思う。

この映画が広く見られてほしいと願ってやまない。 chottokitachosen.ndn-news.co.jp


映画館からの帰り道の夕暮れ。黄金町の駅のホーム。 f:id:towaco:20211110165657j:plain

恋のドキドキシェアハウス 青春時代 / 青春時代2

韓国ドラマ。邦題は『恋のドキドキシェアハウス』。センスが理解できない。 邦題に引っ張られてなかなか手が伸びなかったんだけど、見始めたら面白くて2週間くらいで一気に見た。 青春時代 青春時代2

登場人物たちのキャラ設定が確立されていて、それぞれを丁寧に描いているところがとても良い。

シェアハウスで暮らす彼女たちは常に仲良しな訳ではなく、同じ屋根の下でそれぞれが衝突したり反発し合うこともあるのに、ピンチの時には一気に連帯する。最高。友情というより家族なんだよな、本当に。
あとシェアハウスの中で5人が揃うシーンは見せ方が時に舞台的で、彼女たちの躍動感を感じられて興奮した。

5人それぞれの誰かにみんな感情移入して見るんだと思うけど、私はS1のジンミョンとウンジェが他人事ではなく、特にジンミョンのエピソードは心で大号泣しながら見守ってました。

ただ私の本当の推しは↑の2人ではなく(ごめん)、実はホラ吹きジウォン。
彼女の態度は誰に対してもフェアで、立ち振る舞いが羨ましかった。誰の悪口も言わないし。S2で自分の過去と向き合う彼女は窮地に陥っても弱音を吐かず、淡々と出来ることやるべきことを進めていて、そんな姿勢にも惚れた。なかなか出来ないでしょ。
殴られた顔をソンミンに見せた時の「カラフルでしょ」ってセリフ、普通出てこない。しなやかで、セクシーだった。

2シーズン制作されたけど、キャスト変更があったり、S1のようなテンポが失われた気がしてS2は正直イマイチだったかな。個人的に。
役は生きてて役者が変わるって古今東西そうそうないと思うんだけど、すごい英断。パク・ヘス→ジウになったら、顔しぐさ全て正反対の子になっちゃった気がするけど、どうして彼女を当てたんだろう。身長かな?

↓ウンジェはやっぱりパク・ヘスが良かったな~。
S1のこのガチャガチャな雰囲気が良かったんだよな~。

フェアウェル(2019年/アメリカ)

何となく中国の映画を見たくてアマプラでチョイスしたら、これアメリカ映画だったよ。 しかも製作はA24。 The Farewell

主演の女の子いいなーと思ったら、「オーシャンズ8」のあの娘か! 表情やしぐさもいいけど、ハスキーな声がいい。彼女が話すと心地いい。

ビリーの住むアメリカはもう夢の国じゃない。じゃあ中国はどうなのかというと、ビリーにとってルーツはあるけどやっぱり他人の国。 国を跨いで生きる家族のそれぞれの思いが随所に散りばめられてて見入ってしまった。 どこで生きようと難しい時代だけど、どう生きるか。何を肯定するかは、人それぞれだね。

結婚式の家族テーブルで、みんなで鳥のゲームしてるシーンがとても良かった。何となくすれ違ってた家族の気持ちが円になった感じがして。みんなの顔、とくにナイナイの妹の表情がとてもよかった。

farewell-movie.com

ミナリ(2020年/アメリカ)

見てきたよ。公開されるの心待ちにしてました。映画をこんな気持ちで見に行ったのは久しぶり。
f:id:towaco:20210321092108j:plain(このポスターがお気に入り。アメリカ版ポスターはおばあちゃんのいない4人のがあるんだけどあれはひどくない??)

アーカンソーに越してきた韓国人一家のお話。
トレーラーなどで「農業の成功を夢見てやってきた一家」とか言ってるけど、農業の成功を夢見ているのは父のジェイコブだけである。

5人の家族には互いに小さな、もしくは埋められない不協和音があって、それが細かなエピソードで延々と紡がれるのだけれど、「ああこういう家族の映画なのかこれは」と想像していたのとは少し違って驚いた。自分はこういう延々と日常が続いていく作品が好きなのでこれもありと面白く見てたら終盤に歯を食いしばらずにはいられないような展開になり慄いた。悔しさや哀しさには分類できない、これまで家族の姿をずっと見させられていたからこそ湧き上がる、現実に対する途方もない憤りが自分の全身を貫いていく。家族はそれぞれを呼び続ける。夫婦は互いを。子供たちは親と祖母のことを。衝撃の一夜が明け床に雑魚寝した一家にこの家族の力強さを見た。

個人の映画評をちらちらと読んでいると、父ジェイコブの愚かさに触れるものがいくつかあって驚いた。自分は彼を愚かだとは思わなかったから。
この作品は冒頭から激しい夫婦喧嘩があって、自分は自身の両親を思い出したし、「喧嘩をやめて」と子供たち二人が紙飛行機を飛ばすシーンの二人の気持ちは痛いほどわかるし、自分の子供時代も親の喧嘩を目にするたびに似たようなことをしていた。この瞬間に自分は父ジェイコブや母モニカの視点でこの作品を見ることはできなくなって、誰に呼応したかというと娘のアンである。作品全体を通してアンの描写は薄く、彼女の心理描写はほとんど描かれないので想像するしかない。この空白の溝に自分の意識を入れ込んで見てしまった。正しい映画の見方ではないのかもしれないけれど。
何が言いたいかというと、ジェイコブは確かに自分勝手な一面もあるが、同時に妻を気遣ってもいる。それが妻の求めているものと異なっているだけである(それが大きな問題なのだけれど)。父と母が何度か別れの危機を迎えるが、姉アンと弟デビッドはどちらについていくべきか選べない。これはかなり大きなことで、母が可哀そうだと強く思っていればきっと子供たちは迷わず母を選ぶ。つまり彼らにとって父は悪夫でも悪父でもない。

家族を選ぶのか夢を選ぶのか、というのは大きな問いだが、ジェイコブは自分の夢を叶えた先に家族の幸せを見ているように思う。でもモニカにはジェイコブのその先が見えていない。ジェイコブがもっと語れたらいいのに。
二人はそれぞれの家族の幸せを見ているように思うけど、それを二人は上手に具現化できなくて会話は抽象的だから二人の誤差は埋まらない。闇雲に心が離れていく哀しさがあるけれど、ジェイコブだけが愚かだとは思わないし思えないのは、やはり彼のモニカへの思いやりを感じるから。子供たちへのそれよりも強く。アンの視点から。自分の父はあのような思いやりを持てる男ではなかったから尚更。もうどうしても自分はモニカの視点に立てない。
このジェイコブという役は、スティーブン・ユァンではない俳優が演じたら、また違ったジェイコブになっていたと思う。もしかしたら高圧的、独善的な夫、父親になっていた可能性もある。そう考えると、自分のこの考えは俳優の個性やスキルによるところも大きいのかもしれない。

終盤の再出発の場面で、水脈を探し出そうとするジェイコブの隣にはモニカがいる。十分である。

ここまで主にジェイコブについて語ってしまったが、この作品の主役はデビッド。デビットと祖母の関係が多く描かれるが、祖母を神格化させず、ステレオタイプなところに押し込めなかったことも、この作品の好きなところ。少しずつ祖母との関係が変化していく中で、細やかに表情を変えていくデビッド役のアラン・キムも素晴らしい。

残念なのはやはりアンの描写が少ないところかな。これは監督の自伝的要素を多く含んでいるようなのでデビッドに多く時間が割かれるのは致し方ない。ただもう少しアンの存在を見たかった。彼女にも心の内に秘めた葛藤があったと思うから。

この作品はアメリカにわたって農業成功の夢を見る一家の物語というより、普遍的な家族の物語である。慣れない土地で時に追い詰められながら、家族であろうとするためにもがいている彼らの幸せを強く願わずにはいられない。

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