コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

アメリカ居すわり一人旅 | 群よう子(角川文庫)

群ようこの著作は2作目、10年以上ぶり。
「アメリカ」のタイトルだけで手に取って、非常に面白く読んだ。

アメリカ居すわり一人旅 (角川文庫)

アメリカ居すわり一人旅 (角川文庫)

大学生だった群ようこが、アルバイトで貯めたお金で叔母の住むニューヨークへ向かう。
しかし叔母のもとに滞在する予定が狂い、なぜかニュージャージー州でモーテル暮らしが始まる。
語学力と資金に不安を抱えながら、海外経験もはじめての彼女が、アメリカ・ニュージャージーで3ヶ月滞在した記録。

このエッセイの面白いところは、アメリカへ行った彼女がとりたてて観光もせず、叔母から紹介されたバイトだけして帰ってきたところ。
ホテル暮らしのため節約しなければならない事情が背景にあったわけだけど、「アメリカに行きたい」という願望だけで、特に何をしたい、ということがなかったんだと思う。
素直に「外国」に驚きたじろぐ姿が書かれていて、私は自分の初海外体験(イギリスだった)を思い出した。
自分も似たようなもので、そう言えば半径数百メートルの世界をぐるぐるしていただけだった。

中盤までは、海外はじめて記でそんなに珍しいものではないのだけれど、中盤以降のバイト先の話が圧倒的な面白さだった。
描かれるのは、謎めいているバイトの仕事と、一緒に働くあけっぴろげなアメリカ女たち。
ここから、旅行記ではなくなる。

バイト先の彼女たちは、アメリカのイメージをそのまま体現したような、裏表がない女たちだ。
作者は会話が弾むほど英語力が追いつかない代わりに、冷静な観察眼でバイト先と彼女たちを見つめる。
いちばん印象的なのは、男漁りで頭がいっぱいのシングルマザー・スーザン。
身も蓋もないような女だけど、群ようことのやり取りが面白い。
それ以外にも、群ようこを養女にしたがるドイツ系のオバサンや、ふてぶてしい秘書など、色んな人間がいる。
この空間で、読んでいる自分も、当時のアメリカの一端を彼女とともに体感する。

87年刊行作品だから80年代の滞在記かと思いきや、何と70年代の話。
どおりで為替ルートがおかしいわけだ。
かといって、2010年代の現代と比べて何か違うのか、と問われればよくわからない。
自分はアメリカへの渡航経験がないし、そもそもこのエッセイは人しか出てこない。
いまアメリカへ渡って彼女と同じルートを辿れば、案外同じ光景が広がっているような気もする。