コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

少女は自転車に乗って(2012年/サウジアラビア・ドイツ)

女の子が自転車に乗りたくて果敢に奮闘する映画かな~と呑気に思っていたけど、そんなヤワな作品じゃなかった…。
主人公ワジダの頑張りや、懸命さはもちろん、ワジダのお母さんの人生の転機や決断にも、強く心を動かされた作品だった。
必見。

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ワジダは10歳。おてんば盛り。
幼馴染のアブドラと自転車競走がしたくて、彼女は自転車を欲しがるが母親は反対する。
自転車を買うため、こつこつとお金を貯めるワジダ。
そんなとき、学校で賞金の出るコーランコンテストが開かれることになった。

まず驚かされるのは、サウジアラビアの女性に対する厳しすぎる慣習。
スカーフ以外にも、女性は男の人に歌声を聴かせてはいけない、自転車に乗ってはいけない、車を運転してはいけない、そして一夫多妻制にお見合い制度…。
自分の無知にも恥じ入るけれど、恐ろしくなるほどの女性に対する規制の嵐。
女として生きるのに絶望しそう。

けれど、そこで生きる女たちはたくましい。
アバーヤ(黒布)の下でオシャレをしたり、人目を盗んで恋人とあったり…。
「アラーの教え」と相いれない、そんな描写を見るとほっとした。

ワジダの自転車にかける情熱も、そう。
自転車を買うお金を貯めるため、したたかにセコく立ち回る彼女に半ば呆れながらも、「がんばれー!」と熱く拳をにぎってしまった。因習に囚われない、彼女の軽やかさを応援したかった。
ワジダを演じたワアド・ムハンマドは、女の子の風貌だけどボーイッシュな雰囲気があってすがすがしい。
役者の魅力がそのまま、この役の魅力に直結している。
「黒い靴をはいてきなさい」と怒られてトレードマークのコンバースを黒いマジックで塗りたくる姿は可愛かった。

そして、ワジダの母。
彼女はリベラルなワジダとは対照的で、教えを忠実に守って生きている。
夫はもうすぐ第二夫人を迎える予定で、離れていく夫の心を取り戻すのに必死。

はじめは特に何も思わなかったこの母親に、まさかラスト泣かされるとは思わなかった。
ワジダがひたすらに自転車を追いかけるその陰で、自立を迫られ新たな一歩を踏み出した彼女。
コンクールで賞金を手に入れられなかったワジダに、彼女は大きな贈り物を与える。

あなたは幸せになってね。

母から娘へ投げかけられた、この言葉。何て重いんだろう。
教えに忠実に生きてきたのに、待っていたのは手ひどい仕打ち。
ワジダも母の辛さは痛いほどわかっている。
それでも娘と前を向いて生きると決めたこの母の姿に、そして娘への愛に泣いてしまった。

女で生まれて、女として生きるために、静かに戦っている彼女たちの姿をみて、青臭い言い方だけど本当に感動した。
久しぶりに、いい映画をみた。

少女は自転車にのって [DVD]

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少女は自転車に乗って
2012年/サウジアラビア・ドイツ
原題:wadjda
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、リーム・アブドゥラ