コーヒー3杯

紙の日記が苦手だから。

唐山大地震(2010年/中国)

1976年に中国の唐山市を襲った大地震によって引き裂かれた家族の物語。
父は地震で亡くなり、姉ファン・ドンは手違いから別の家族に引き取られる。残された母と弟ファン・ダーの二人は地震後の唐山市で暮らす。

家族の在り方とはなんと難しく、歯がゆいのか。
1976年、1986年、1995年、そして2008年と時代を重ねていくが、母、姉、弟の気持ちは微妙にすれ違い続ける。それは姉ファン・ドンを引き取った義父母も同様だ。みんながそれぞれ互いを思っているのに、どうして相手を孤独にしてしまうのか。どうして一緒にいられないのか。
そこには母や義父母から自立しようとするファン・ダー、ファン・ドンのそれぞれの姿と親たちの子離れの姿がある。

登場人物の中で私が強く心を動かされたのは、ファン・ドンの義父。彼はファン・ドンの選択を常に尊重する。彼女を引き取った直後から彼女に寄り添い続けた。彼の大きな愛に包まれていることを自覚しているからこそ、ファン・ドンは家に帰れなかったのだと思う。やっと帰ってきた娘はしかし、新しい夫とカナダへ居を移してしまうが、そのときも彼はきっと温かな笑顔で送ったのだろう。
そして、不器用なファン・ダーの母への愛にも触れたい。彼は彼なりに母を思い、母のためにと思ってしていることが時にから回る。妻よりも母を優先する姿には閉口するが、頑なでどこか入り込めない母を喜ばせるためだと思うと、彼をいじらしく思わずにいられない瞬間もあった。

舞台が2008年に移行しても、1976年以来、離れ離れのままの家族はまだ出会わない。ファン・ドンに唐山の家族を探す意思がないため、このまま家族は再会しないまま終わるのかと思っていた。しかし、ファン・ドンとファン・ダーは四川地震の被災地にそれぞれ救援に入り、そこで再会する。
うまいと思うのはその決定的な場面をこの映画は描かなかったこと。
ファン・ドンとファン・ダーの再会した瞬間は想像にまかされる。出会う直前の次の場面では、ファン・ダーの借りたバスに乗ってファン・ドンは唐山の実家に向かっている。二人に特に会話はない。すでに互いに大人であり、微妙な距離感で会話を交わす。この温度がとてもいい。

実家へ戻ると、母がファン・ドンを出迎える。母は泣く。父とファン・ドンの墓へお参りに行くとファン・ドンも泣く。ファン・ドンの母への誤解が解けて、家族が再び集う場面だが、私の心を揺さぶったのは、やはりファン・ダーである。家にファン・ドンを迎えた際はバタバタと彼女の遺影を外し、墓へ行けば墓穴を開けて、母が彼女へ残したものを見せる。相変わらずのぶっきらぼうな態度で彼が示しているのは、ファン・ドンを歓迎する気持ちと、ずっと変わらずに姉を思い続けた母への敬愛だ。
家族を失くした者、家族と離れざるをえなかった者もつらいが、母のもとに残された彼もきっとつらかった。女二人は泣いたが、ファン・ダーは一度も泣かないし、どこか醒めたところから、彼も間違いなく家族を思っていたことが垣間見えて、わたしは泣きそうになった。

唐山大地震 [DVD]

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  • 発売日: 2015/08/05
  • メディア: DVD